当代随一の美丈夫にして、三国一の男前(でもクズ)

キャプテン渡辺初単独ライブ「全回転」
10/23 大和田伝承ホール 19:00


キャプちゃん。キャプテン渡辺。


吉本・非吉本に関わらず「クズ芸人」がライブシーンで注目されることが多くなってきた。名前がつくとカテゴリができて、市場も生まれよう。
その流れの最初の一滴、「クズ」という言葉が市民権を得るに至ったのは、やはりこの人の漫談の力が大きいのではないかと思う。


私が初めて見たのは2010年9月10日のフライデーナイトライブだった。黒いタンクトップで白のつなぎを腰で結んで、軍手を履いて「日雇労働者あるある」の漫談をした。その時の感想は「キャプテン渡辺がかっこよくて良い声でおもしろいという最早卑怯」。
翌日の「おもしろい芸人ばかりあつまるネタとコーナーのライブ」にも出ていた。サムはそこで見たのか。


とにかく自分をクズクズと言うから、私はてっきりピンで14年ぐらいくすぶっているのだと思っていた。wiki見て驚愕。ピンになったのは2010年1月で、その年のR-1はもう準決勝に残ってる。これ、ピンになったとたん瞬く間に売れたと言っていいレベルじゃないか。
まさか自分がライブ行き始めたときにまだキラッキラーズが活動してたとは……。ボキャブラ芸人くらいの歴史上のトリオだと思ってた。


でもそれで合点がいった。単独ライブを見た後どうにも納得がいかなかったのだ。なんでこんなに面白くてかっこよくて声が良くて活舌がよくて、トークも漫才もコントもできて漫談に至ってはもはや貫禄すら感じさせるのに愛嬌満点の美丈夫が、この年まで売れていないのか、ということに。
売れてないんじゃなくて、売れてるところなのか。今まさに。
これ全然褒めすぎてないです。


36歳のキャプテン渡辺、初単独ライブ「全回転」を見に行った。会場の大和田伝承ホールのキャパは339で、都内のお笑いライブの会場としてはトップクラス。ご本人は最初完売すると思っていなかったようだけど、昼公演を追加してもたぶんはけたと思う。なんとなく、そういう期待感があるお人だ。それは客席にいる方がよくわかるのか。
ピン芸人の単独ライブは初めて行ったかもしれない。
いやー、楽しくて、楽しくて、楽しいライブだったーーーーー!
とにかく全編にわたってキャプちゃんが楽しそうで楽しそうで、見てるこっちまで嬉しくなるくらいだった。好きなことを好きなように、いろんな人を巻き込んで楽しそうなキャプちゃんは、喋ればおもしろく、踊れば可愛く、普通にしてたらかっこいいというもはやどこが弱点か教えてくれと言う勢いだった。
席に置かれていたフライヤーのご挨拶文が、またなんとも良い文章だった。私みたいにど平凡な人生を送っている者からすると、土俵を割ってもその先にまだ世界は続いているということを知っているキャプちゃんたちには、なんかやっぱりかなわないなぁと思うのですよ。


全部のネタについて感想を書くには、ちょっと楽しみ過ぎて記憶が自信ないのだけど覚えてる範囲で。

漫談「クズ漫談」

「正装」のスウェットとタオルで。もはや圧巻の域の伝家の宝刀。

コント「爆笑グランプリ」

ドラキュラみたいなマントで、賞レースに出たピン芸人がネタを飛ばして……。最初ほんとにネタ飛ばしたのかと(笑)。ネタを作った時は、まさかオンバトがあんなことになるとは夢にも思ってなかったろうに、引きが強い(笑)。

演説

漫談ともコントともつかないネタ。これおもしろかったー! 就職活動中に「履歴書はいいから写真だけはがして返してくれ」と切実に思ったのをまざまざと思い出した(笑)。実体験が風刺になるという、キャプちゃんの芸風でないとできない技。

名言コレクション

めくりネタ。クズ仲間の皆さんの、心に響く名言集5つ。もっと見たかった!

漫才

昔の相方ジャック豆山さんと漫才。これが、ほとんどトークコーナーかと言う自然な感じで、でもちゃんとおもしろくて。豆山さんと喋るキャプちゃんがほんと楽しそうで、普段はひとりだからこういう絡みで楽しそうってなかなか見る機会ないよなぁ。フリートークっぽくなるとキャプちゃんの関西弁が強く出て、またそれが可愛い。もうなにやってても可愛い。とにかくわけがわからんくらい愛嬌がある。色気もある。なんかもういろんなものがだだ漏れている。

エアめくり

めくりの台だけ出てきて、紙がないめくりネタ。こういう変化球もあるのかー。

「推理漫談」

ベストとネクタイとハットで、手品師というか昔のペテン師というか外国の紙芝居やる人というか……。もしも○○ならというお題と、その答えのめくりネタ。衣装可愛かったなー。

「リーチ」

「CRキャプテン渡辺」のリーチ、と言う設定で、2つ揃ったところにキャプちゃんがなにか挑戦して大あたりになるかという企画っぽいコーナー。黄金色の全身タイツをきたキャプちゃんが出てくるんだけど、リーチの準備をしてる間中とにかくぷりぷりと踊り続けてこれがもう吐き気がするほど可愛かった……!
瓦が割れて喜び、へたくそなイラストを書き、牛乳納豆で満場の手拍子を浴びるキャプちゃん。芸人さんや後輩がわらわらと準備したりする中で踊るキャプちゃん。会場手拍子。キャプちゃんの愛されっぷりを目の当たりにした。

コント「疑惑」

初老のサラリーマンの愚痴と言うかいいわけと言うか往生際が悪いというか(笑)。ネタよりもキャプちゃんの演技に目が行ってしまう。やっぱり声が良いなぁと思う。

おまけ「海物語」

最初のキュインキュイーン!て音だけで期待感にざわつく客席がすごい(笑)。サムはこの日も絶好調でした。でもちょっとネタを飛ばして悔しがっていた。オンバトよりはるかに短かったけど。


ブリッジの映像がまた多種多様で、皆でパチンコのリーチ画面(携帯で撮ったものと思われる)を凝視すると言う謎の数分間からの「リーチ」とか、最近見た中で一番つまらなかったネタと紹介してチェリーボーイのマイケルジャクソンネタをVTRでがっつり見た後に忘年会のネタのコントとか、構成がおもしろかったなー。すごく引きで見てる人なんだなと思った。
ことさらにおもしろかったのが「O弁当大喜利」だった。O弁当のバイトの恰好で、O弁当あるあると思われる大喜利を答え続けるキャプちゃん。これが、さっぱりわからないのである。だってO弁当のこと知らないから。「あれ、このO弁当なにかおかしい、さて何がおかしい?」→「おにぎりが150gじゃないっぽい」とか。
「クズ」とか「パチンコ狂」とか、決して平均ではない人のあるあるで爆笑を獲る人が、共感を得なくても良いラインを狙うとこういうことになるのか!とものすごくおもしろかった。まぁこの場合の「おもしろい」は「興味深い」の意味なので、会場の反応的には微妙なんだけど(笑)。
あとはなんかカラオケとかしてたっけ……。こうやって羅列してみるとほんとにいろんなことやってるなぁ。でもそれが全然ばらばらな感じがせず、会場全体「キャプちゃんのやりたいこと」を丸ごと受け止める感じで、ほんとに楽しくて幸せな空間だった。


それと、なによりぐっときたのは実はOPだったりする。女性ボーカルの曲に乗せて、キャプちゃんが銀行に行くと残高が「228円」。ばったり倒れるキャプちゃん。
公園のベンチでO弁当の制服に着替え、そのまま改札をくぐったり戻ったりして、おそらくはバイトにいそしむ日々を表現しているのだろう。でも、やっぱり残高は228円。O弁当の制服のまま、ばったり倒れるキャプちゃん。
再びベンチで難しい顔をしていたかとおもうと、灰色のスウェットに着替えて頭にきりっとタオルを巻き、砂浜(どう見てもお台場)にすっくと仁王立ちして、海を前に、人差し指で天を指す姿が繰り返し映される。
これはもう、ちょっと涙が出るほどかっこよかった。芸人としての「正装」に身を包む姿は、それが灰色のスウェットであってもかっこいい。口には出さない覚悟が露わになる。
しかもまたそのときの曲が「闇に埋もれてたんじゃ なにも残せないから」という歌詞で、なにこれモグラ芸人脱却の決意表明!?と色めき立ったんだけど、ツイッターで教えて頂いたところ



なんとスロットの曲だったと。ああ、やっぱりキャプちゃんはキャプちゃんなのだと。
もうすでに愛されていて、これから売れたりお金持ちになったりしたとしても、きっとずっとどっかどうしようもなくて愛され続けるクズなのだろうと。
同じことをやっても笑えない人はきっとたくさんいる。でもキャプちゃんは、みんなを巻き込んであきれられながら、笑顔にさせてしまうんだろう。笑ってしまったらこっちの負けだ。
最後のご挨拶で、「ここは僕には出過ぎたホールです。次は千川びーちぶでお会いしましょう」と言っていたキャプちゃんは、やっぱり可愛くてかっこよくて愛嬌があって(サムで)、もっと欲を出せばいいのにと思うけど、まぁきっと千川びーちぶに会いに行ってしまうよね。こっちが。勝てないもの。