愛のなんたるか

愛のある作品があれば、愛のない作品もある。フィクションにおいて、作品に込められた愛は、直接には物語の行方を左右しない。
まぁでも、ないよりはあった方がいいよねと漠然と思っていた、そしてそれ自体も漠然としていた「愛」がなんなのか、なんのためにそこにあるのか。福岡のKBCで放送されている「ドゲンジャーズ」を見ていていたらあまりにもはっきりとわかった。

作品に込められた愛は、よく磨かれたレンズのように、見ているものの目の中にくっきりとした像を結ぶ。それも、映した対象の実像すら凌駕するほどの一番魅力的な姿で。

そもそも九州も九州のエリアヒーロー*1も全く知らなかったのに「ドゲンジャーズ」を見ようと思ったのは、荒川史絵監督がメガホンを取ると聞いたからだ。
荒川監督はトッキュウジャーのVシネマ「行って帰ってきた烈車戦隊トッキュウジャー 夢の超トッキュウ7号」を撮った人で、これがもうストーリーや展開の起伏ももちろんだけど、全編に愛にあふれた素晴らしい作品で、誰彼構わず見せたいくらい大好きだ。秋葉原で荒川監督と明役の長濱慎さんが対談したときは、すでに受講料払っていた区の体操教室すっぽかして行ってきた。
Vシネマを見たときに、自分がそれを押川さんの引退作品と認識していたかどうかは定かではないのだけど、素面の押川さんの姿は知らなかった。でも、変身後のトッキュウ1号と子供のライトが並んで歩くシーンと、エンドロールの先生を見たとき、あ、この人が押川さんなんだとわかった。言われずとも確信した。
あの作品に込められた監督の押川さんとトッキュウジャーへの惜しみない愛が、無知な私の目をそこに向けて、言葉や台詞で語らずとも教えてくれた。

九州とヒーローについて何の知識も思い入れも無いはずの自分が、見進めるにつれて、どっちのこともどんどん好きになってなんかちょっとおかしいんじゃないか?というくらいテンションが振り切れてきたのが3話だった。
何度も言うけど、九州についても、エリアヒーローについても、なんなら特撮そのものだって見始めてまだ1年だから知らないことばかりだ。九州に住んでいる人なら、昔からエリアヒーローを好きな人なら、特オタなら、きっともっと深くからドゲンジャーズを見て私には思いもつかないような楽しみ方をしているだろう。私はドゲンジャーズを形成する幾重にも重なったレイヤーの、一番上の表面を見ているに過ぎない。
それでも画面に映る九州と彼らがあまりにも魅力的で、無知でもこんな素敵なものが見られるんだからいいや、ひらおと鬼丸ホームのCMは見たいけど、と思っていた。

気づいたのは6話だったと思う。フクオカリバーさんの回。唐突にわかった。私は自分の視力と理解力で彼らを見ているんじゃない。
思い出したのは、小学生の時に初めて眼鏡を作った時のことだった。重たい検眼用眼鏡のレンズをカシャンと入れ替えた瞬間に、ぼやけていた世界がはっきり像を結ぶ。
そんなふうに、ドゲンジャーズは無尽蔵の愛で、あの土地が、彼らが、もっとも魅力的であるようピントを合わせた像を作りだし、見るものの目に映していた。

私はエリアヒーローのガワが代替わりするということも知らなくて、なのでフクオカリバーさんが8年間同じ姿で戦ってきたことも、ドゲンジャーズ出演のタイミングで姿が変わったことももちろん知らなかった。
でも6話を見ただけで、その姿で戦い続けることの大変さや積み上げてきたものが胸に迫った。教わらずとも、わかったのだ。

そう思って一挙放送を見れば、なるほどと思うことばかりだった。
ドゲンジャーズで知ってから、それぞれのヒーローについても色々検索していた。そのたびに、なんというか、納得ばかりしていた。まるでもう知っていたことが補強されていくような感覚。
エルブレイブさんがプロレスラーとヒーローとの二足のわらじで活動していること、そのお披露目が八幡建設のイルミネーションのイベントだったと知った時は、1話から同僚の皆さんと一緒だったしおやっさんめっちゃ良い人だったもんなぁ、とか。
どこまでもかわいくあざといヤマシロンが食育の活動していると知ったときは、ちいさな存在を慈しむのはいかにも彼ららしいなぁ、とか。
何も知らないはずの私が、大事なことを知ったような気になっている。それはドゲンジャーズで出会っているからだ。彼らが最も彼ららしく、魅力的であるような姿で。

それで何が言いたいかというと、キタキュウマンなんですけど。
ここまでの11話でキタキュウマンのこと好きにならないでいられる人いる!? 無理でしょ!? そもそもああいうどこまで本気かわからないひょうひょうとしたキャラクターなんて好きに決まってんのに9話からのギャップ! 本気で怒って袂を分かったと見せかけて単身宿敵に乗り込んで戦ってやられて独白からの慟哭ってどんだけ……どんだけ負わせるのそして引き受けるのしかもかっこいいの……!

ここのところ暇さえあればFMキタキュウマンの過去回を聞いて、イオンモールでのショーの動画を見て、キタキュウマンの過去のツイートさかのぼってるのだけど、どこ探しても10話11話ほどかっこいいキタキュウマンはいない。でも、飯テロのキタキュウマンがドゲンジャーズのキタキュウマンを演じているのは確かに地続きだった。物語前半のちゃらんぽらんぶりと、人を喰ったようなツイートのなかに見え隠れする芯の合わせ技がそう思わせるんだろう。なんであれそう思ってしまったんだからもう負けである。
最初に一番かっこいいところを見てしまって、それが実像*2とブレがないなら、もう調べれば調べるほどに魅力が補完されていくだけである。私は今北九州市の観光スポットをGoogle Mapに保存する作業に余念がない。

シャベリーマンさんが、どれほどエリアヒーローたちのことを思ってこの脚本を書いたのか、それは今の私のこのはまりっぷりが証左と思う。ひとりでも多くの人に彼らを、彼らの良さを伝えたいというドゲンジャーズに込められた愛は、過たず彼らの一番素敵な姿を見るものひとりひとりの中に形作った。光輝く彫刻のように。

キャラクター造形や脚本だけでここまで書いてしまったけど、演出やアクションのひとつひとつやロケ地にも、すべて愛が詰まっているのがひしひしとわかる。わかるけれど無知な私に解説はできない。でも朝倉の三連水車を覚えた。

明日の最終回、彼らの勇姿がどう描かれるのか、自分の目に映るものが待ち遠しくて仕方ない。これまでで一等素敵な姿が見られるに決まっているから。

*1:ご当地ヒーローとかローカルヒーローとか色々呼び名はあるようだけど、ここでは悪の秘密結社の発行物に掲載されていた漫画の表記に従っている

*2:といってもそれもキタキュウマンとして演じられた姿で、それを演じるのは滝さんで、滝さんもさらに演じられたキャラクターだけど