降る雨が落ちるまでの

ニコイチ やさしい雨プチ単独ライブ「栞をSSAWに」
11/7(土) V-1 18:30


やさしい雨のプチ単独を見るのはこれで3回目。初回の単独のタイトルがいまだに判然としないのだけど(「ファミリーポートレート」が単独のタイトルなのか一つ目のネタの名前なのかわからなかった)、初回は家族をめぐるコント群、この前が「眠たい町」でひとつの町を舞台にしたオムニバス、今回は「栞をSSAWに」で、季節を感じさせるようなコントを計8本。


めっきりお笑いのライブから足が遠ざかっているのであまりあてにならないかもしれないけど、やさしい雨のライブ出演数は決して多くない。と言うか太田プロの芸人さんはFKDを除いて外部のライブの出演が少ない。ぐりんぴーすは革命児。かといって事務所ライブも月に一度だし、単独ライブは月笑と言ういちばん上の事務所ライブで優勝した1組しかできない(インスタントジョンソンとトップリードは別。あと、しし丸さんがラジオ番組の提供でやったことがあるのでスポンサーがいればできるのかもしれない。聞いた話だとダーリンハニーは勝手に単独をやって月笑を出禁になったことがあるらしい)。


だから2年前にはじめてやさしい雨とアイデンティティが「ニコイチ」を開催した時画期的だなと思ったし、同時に、やさしい雨がこんなにもネタがやりたい人たちだったのか、こんなにやりたいことがあるのにあの程度のライブ数でよく我慢できるな!と心底驚いた。あの時から変わらず、私にとってやさしい雨はこころからの信頼を置くコント師で、それは今回も変わらず、むしろ強まった。


ネタの面白さは後で言っても間に合うから、とにかくあの、やさしい雨の1時間を見ている間にずっと会場を満たすあの感情を、今年も感じられたことを先に書きたい。いつだってあの1時間、会場はネタ中も幕間も一瞬の隙もなくずっとひとつの気持ちを保ち続ける。それは幕間の転換に出てくる若手の小芝居だったりとか、薄暗がりでいちいち律儀にお辞儀する松崎さんとか、わかりやすく目に見えるものによることもあるけど、それ以上に目に見えない何か。ネタ中に言う台詞の合間の言わないこと、ネタ中の仕草で目をやる先ではないあさっての方向、そういう、「あるもの」の間にあるからわかる「ないこと」でさえずっとやさしい雨を見るときの気持ちを作っていく。どのネタも、ネタの合間も、今が今だけのことで、あの二人がこの1時間のどの一瞬もとりこぼさず今に紡ぎあげて行くのがずっとわかる。
無くなって初めて気付くのが世の常だけど、やさしい雨のコントを見ている時は無理に終わりを見なくとも今が今しかないとずっと痛感している。簡単に言ってしまえば見ている間中ずっと切ない。すごく笑うんだけどその笑い声が消える前にもう切なくなっている。今の一瞬はもう今でないとわかっている。その今があまりに奇跡だったのもわかっている。


今回も最後のコントで全てのコントの登場人物が少しずつ顔を出した。やさしい雨がやるとこれは技巧でも小手先でもない。さっきまでの今を生きていた人にもう一度会えたようにただ嬉しい。砂粒のような一瞬ずつがすべて輝いて指の隙間からこぼれていく。全てが無性に大切だと思う。
コントのひとつひとつはすごくばかばかしくてためになることとか別になくて、ふたりのキャラクターでないとできないことばかりで大笑いしてるのに、この切なさが矛盾せず成り立つのはなんでだろう。今回は特に「ゴールデンウィーク明け」が珠玉の1本だった。もう涙がでるほど笑って、終わるのが切なくて泣いてるような気さえした。


良い単独を見た後拍手が鳴りやまないのは、賞賛を贈りたいのはもちろんだけど拍手をやめたらこの単独が終わってしまうという気持ちが手を止めさせない。一瞬でもこの今を引き延ばしたい、そう思って拍手をやめられない。年に1度でもそんな単独が見られるなら、どんなにお笑いに疎くなっても必ず足を運ぶ。来年はほんとの単独待ってます。

やさしい雨プチ単独ライブ「栞をSSAWに」

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