名前が可愛い

ある日のトップリード新妻さんのツイート。



このツイートを見て、なんだか可愛いと思った。なにが可愛いんだろう?と立ち止まってみたら、「ジンカーズの」が、可愛い。
仲間内しか知らないような「3段台本」に枕詞を付けると、「ご存知の」みたいな雰囲気になること。またその枕詞が、あまりにも限定的であり、その本人が自分たちにつけた名前だということ。そのてのひらほどに小さな宇宙が、可愛い。


昔、ワンピースを読んでいた者同士で「ふたつ名というのはかっこいいね。自分にもああいうのがほしいものだね」という話になった。ふたつ名とは「麦わらの」とか「赤髪の」みたいなあれである。
あれはかっこいい。でも、コンビ名は、なんか可愛い。
ふたつ名は、人がつける。本人でない人が、その人を呼ぶためにつける。その時には「本人」は他者から一目置かれている。だからかっこいい。


コンビ名は、自分たちでつける。某と某、それぞれに名前はあるのに、某某になったときだけ別の名前を名乗ろう!というふたりにしかかかわらない、小さいけれどけっしてささやかではない決意がコンビ名だ。だから芸人さんがコンビ名を名乗る時、いつもちょっと誇らしげに見える。仲の良い芸人さんのコンビ名を挙げて「○○は」と、ひとつ別の世界があるように話すのも良い。それぞれに不可侵の領域があって、そこに掲げられているのがコンビ名。表札のように。国旗のように。


アイドルグループも、芸人さんも、ひとりでは生まれ得ない関係性と物語が、傍観者にすぎない観客を虜にしてやまない。ジャニーズからお笑いを見るようになってすぐに、不思議に思ったことがあった。「どうして芸人さんは解散せずにいられるんだろう?」
ジャニーズのことしか知らないが、アイドルグループは社長をはじめとして偉い人が作る。youとyouとyouで○○ね、と、強制的に「組まされる」。普通自分の意思で解散はできない。最近は自分の意思で脱退する人もいるが、隔世の感がある。基本、アイドルグループは自らの構成員を自由にできない。その偶然と必然から、唯一無二のグループになっていくのを見守るのが、アイドルファンの醍醐味でもあろう。
芸人さんは、自分の意思で組む。つまり、解散も、自分の意思でできる。誰かに組まされたわけでもなく、なにが保障されているわけでもなく、苦労だけは山のようにあるのに、なんで、彼らはあんなに拘束力のないお互いをお互いに一番と定めて、続けていけるんだろう。
芸歴10年近くの芸人さんたちを見ると、その愚直さに目がくらむ。何年も何年も、ただ「○○ですー」と、自分たちでつけた根拠のない名前を名乗り続けることは、それだけで自分たちが自分たちを信じていることを明らかにする。吹きだまっていても腐っていても、コンビ名を捨てない限り彼らはただの人ではない。
小さな宇宙にただひとつ名前を掲げて、そこを守り続ける人たちの苦労を知らない。でもときどき、彼らがそれをどんなに楽しんでいるかは垣間見ることができる。


コンビ名は売れた時、冠として輝く。名乗るまでもなく「ああ○○の」といわれるそれはふたつ名と同じことになる。かっこいい。