この世の果てのふたり

ジンカーズ第5回単独公演「FIVE」
2/5 しもきた空間リバティ 14:00


ジンカーズのコントを見るといつも、「この世の果てでやってるみたいだな」と思う。異次元ではなく、あくまでここと地続きの、でもものすごく遠いどこか。たとえば鬼ヶ島のコントは異次元の砂漠の真ん中に彼らがいる中学校だけがぽつんと建っているように思うのだけど、ジンカーズのコントはすべていま・この世界の常識がベースになっている。おそらく彼らは、私たちと同じ教育を受けて、同じ社会規範を学んだのだと感じる。その上で、やすやすとそれを踏み越えたりゆがめたりしてくる。断絶も恐ろしいが、理解の上で話が通じないのは、同じ土俵にいる分、違った意味で恐ろしい。


でも今日の公演後に残ったのは、恐怖感ではなく爽快感だった。そして温かい心地よさだった。極北の風景を見てきたのに、そこに灯る暖炉のぬくもりばかり覚えてきたようだった。
ネタをしているときの、ふたりのズレのなさと、そして幕間のおしゃべりに負うところが大きい。
噂には聞いていたけど、本当に幕間にふたりで今やったばかりのネタの話をするのね。ゲストにかもめんたるの槙尾さんがきたり、鬼ヶ島のDVDの宣伝をしたり、ラジオのような閉じた喋りが心地よかった。なにより楽しそうだった。たわいのない話に本気で笑うふたりに、なんだかほっとした。
活動休止に触れ、「半年の間に会うんですかね?」と気にする樋口さんに馬場さんが言い放った「会うよ!」のひとことがあまりに力強くて、そう言えば馬場さんのツイートばかり見ているからなんとなく馬場さんの決断のように思っていたけれど、活動休止はふたりで決めたことなんだろうなとそこで初めて気づいた。


私にとってジンカーズはパワーバランスが良くわからないコンビだ。カウンタートークに行ったことがないからかもしれないけれど、ネタだけ見ている限り、わからない。樋口さんがアイデアを出すネタも、馬場さんが書くネタもあるらしい。コントの中では馬場さんが樋口さんに困らされることが多いけど、それが現実そのままとは思わない。
そこがはっきりしないせいなのか、なんだかすごくお互いに沿ったコンビだなと思った。凹凸がぴったり合っているというか。樋口さんの狂気をやわらかく受け止めて、会話を続けられる馬場さんにいつも感心する。コントの中のこととは言え。


ジンカーズのふたりがいるところが、今いる世界の北限のように思う。そんなところまで世界は続いていたんだねと思う。ひとりではなく、そんな遠いところだってふたりも人がいるなら、間違いなくそこも世界だと思うのだ。
そしておそらく、ジンカーズ自身がだれよりそこを大事に思っていて、その世界にあり続けるために、いったん休憩するのだろうと、そんな風に想像している。


EDの曲のタイトルが「Let Me Jump Again」だった。彼らは再び高く高く飛ぶために必要なことをするんだと思うから悲しむことではない。でも寂しいのは仕方ない。
寂しがりながら、ジンカーズが次に見せてくれる最果ての風景を待っている。

  1. スター
  2. 犯人捜し
  3. 賃貸借契約書
  4. クレーム
  5. ヴィジョン
  6. ここで死んでもらう
  7. 行方不明
  8. 拝啓、吉田戦車様3
  9. 親友だろ