漫才師、あたりを払う

磁石単独ライブ「プレミア」
7/30 19:00 新宿明治安田生命ホール


非吉本東京芸人の中で、おそらくトップクラスの人気と実力を誇る磁石。毎回ものすごく笑うのだけど、「磁石の漫才はこういう漫才だ」と、端的に言い表せない。単独ライブを見たらそれがわかるのかと思い、初めて行ってみた。
結論から言うと、結局わからなかった。終わった後思ったことは、「漫才師ってなんてかっこいいんだろう」。そして、「磁石はなんてかっこいい漫才師なんだろう」
磁石のお二人はあまりに華があり、あまりに見た目もかっこうよろしいので、誤解を招くかもしれない。しかしまぁ嘘はつけない。
ちなみに勝手知ったる明治安田生命ホールは、お手伝い芸人の皆さんもスーツで全体的にシュッとした印象になっていた。こんなに変わるのか。


漫才師の単独ライブを見た回数は多くないのだけど、その少ない中でも「漫才の単独ライブってむつかしいんだな」と思う。いちばん正しい形は、ナイツの独演会だと思っているのだけどあれは彼らの実力プラス特殊な環境のなせる業なので、都内ライブに出ている若手皆にあれをやれというのは変な話だ。
磁石はコントをやっているところを全く見たことがなかったので、どうするのかなと思っていたのだけど、今まで私が見た「漫才師の単独ライブ」の中では、一番たくさん漫才をやってくれた。
漫才をやっているときの磁石はそれはもうかっこよかった。コントも漫才もおもしろかったけど、漫才はやっている間中、ああ漫才師が漫才をやっているとそれがとても贅沢に思えた。ただ彼らが漫才師であることを見ていたかった。


こんな風に思ったのは、明らかにOPの映像のちからが大きい。
衣装も設定もフライヤーそのままのOPコント(学生時代いじめられていた永沢さんの、さっさんに対する地味で陰湿であんまり効果のなさそうな嫌がらせの数々)からブイに話が続き、逃走→ケンカ→仲良しの流れを経て、家に帰ってくると「果たし状」と書かれた手紙が玄関先に張り付けてある。
部屋に入って、衣装の赤青シャツとスーツに着替えて磁石になる二人。永沢さんとサンパチマイクを担いださっさんが並んで歩いて行く。果たし合いの場所に来た、ヤンキーコスのホリプロ若手芸人の皆さん(笑)。
いきりたつ若手が襲いかかろうとした時、地面にサンパチマイクを打ち立てて漫才を始める磁石。
きょとんとした顔から徐々に笑顔になり、最後は座り込んで聞き入ってしまうヤンキーたち。
ちょっと胸を突かれるくらいかっこよかった。磁石の二人が、漫才を「こういうもの」だと思っているということ。そしておそらく漫才を好きな人というのも、漫才を「こういうもの」だと思っている。思いたい。金もコネもない若者が、サンパチマイクひとつで天下をとれるのが漫才だ。


お二人の印象とは別に、つくづくさっさんておもしろい人だなーと思った。漫才中駄々っ子のような永沢さんと相対するときはものすごく包容力のあるおとなに見えるのだけど、不思議なことになにが根拠ということもなく、「たぶんこの人どうしようもない人だ」と言うのが伝わってくる。
永沢さんが「認定漫才師」と言うたびに「よっぽど嬉しかったんだね」と言うさっさんは、包容力の塊だった。父兄かと思った。それなのに、「ブスは待つ」はこの人が言うからこその説得力だったりする。
なんでなのかわからない。ツッコミの腕は万人が認めるところだし、あんなにシュッとしてるのに全身からこぼれおちるあのどうしようもなさ。ひょっとしたらあれは「色気」と呼んでしまっていいものなのかもしれない。だってたぶん、どんなにさっさんがろくでなしでもぜったい憎めない。たぶんでぜったいってなんだ。でもきっとそうだ。これ男の人から見たらどんなふうなのかなー。
そしたら広島出身なんですね。納得。広島の人と言うのは、皆人懐こくて、お人好しで、根っからの悪人はいない、どうにも憎めない、そういう県民性なので(異論は認めない)。
幕間のブイでも、別人とわかりながら病気と言われると無碍にはできないさっさんのお母さんが、いかにも広島の人っぽかった。


ものすごく安定した漫才をするのに、磁石はおそろしくふらふらしてるようにも見える。ただ、とても高いところで。まったくつかみどころがないのは、さっさんのパーソナリティのせいだけではなかろう。
なんかもう、きっかけとか、理屈とかすっとばして、えらいこと売れないかなと思った。なんだかそういう、思考とか戦略とかおいといて人を虜にする魅力があるコンビだった。なにより問答無用でかっこいい漫才師だった。
私は磁石ファンというわけではないけれど、いつかアメトーーク
  永沢:僕たち!
  全員:FKD48です!
が聞けたらたぶん泣くよああ泣くとも。