ドゲンジャーズナイスバディ第10話

nico.ms

何か書こうと思って見返して、最後まで見て毎度泣いて「書くのは明日にしよう」と思ってるうちにもう12時間後には11話だよ!
多分見る人によってどこで泣いてどこで救われたかが全然違う回で、見れば見るほど胸がいっぱいで感想というほどのものも書けないのだけど、覚書なので、自分が何に泣いたのかだけ書き留めておきます。

私は好きなものを馬鹿にされたり否定されたりしたことがなくて、ずーっと自分の好きなものに自信満々で来た。なので、子供の頃の正蔵さんみたいな辛い経験はないし、トラウマもない。
特撮を好きなったのもここ3年なので、女のくせにとかいい歳してとか言われたこともない(しかし小中学生の時とかにそれを言われたら相手に殴りかかっていた自信はある)。
そんな私が、笹井さんたちより全然年上で、名実ともに中年の私が泣いたのは、カメラのファインダーから離れた正蔵さんの目が映った一瞬と、グレイトAと正蔵さんがサムズアップをしあうところだった。

このシーンを見て、北村薫の「円紫さんと私」シリーズの「私」が、作家の先生に「本当の才能は、太陽の方を向いているものだと思う」と諭されるシーンを思い出して引用したかったのだけど、北村薫作品て電子になってないんですね。創元推理文庫はもう手元にない。今日本屋も見たんだけど売ってなくて、間に合わなかった。

この年になって思うのは、トラウマとか、恨みとか、そういうものを原動力にして行けるのはある程度のところまでで、それ以上に行こうとするとどうやっても「陽」の動機でないと進めなくなるらしい、ということだ。「ある程度」のところまで行ったときにそこまで行くことに手を貸してくれた人や状況に気づいて、そのことへの──ものすごい陳腐な言葉になるから嫌なんだけど──「感謝」を原動力にして次に行かないといけないと。
書いてみるとほんとに陳腐だな。
私は全然根明じゃないし根に持つタイプなんで日々生きてて「感謝」とか全然思ってないんですけど、でもまぁ、さっき書いた「好きなことを馬鹿にされなかった」というのも、別に私の手柄でもなんでもなくてただ周りに恵まれてラッキーだっただけということはわかる。あと、自分が法に触れずに生きているのもただただたまたまだなぁとも年々思うけどそれはおいといて。

グレイトシリーズを生み出して26作も続く長寿シリーズに育て上げた正蔵さんが、ずっとトラウマだけを原動力にしていたとはとても思えない。きっとどこかで、太陽の方を向いていたと思う。
初めてグレイトAの撮影をしたあのとき、正蔵さんのトラウマは解消されていたんじゃないかなぁ。なにくそと見返したい気持ちで頑張って、ついにヒーローを現実に生み出した瞬間に。ファインダーから離れた一瞬、それでも感極まっているのがわかるあの目を見て思った。ひょっとしたら夢中になって作る過程で、忘れていたかもしれない。

ドゲンジャーズと会ったのが、一番辛い思いをした教室だったというのは、歳をとったり病気したりすると気が弱るものだからかなぁと思ったのは自分の実体験に即しすぎているかもしれない。頑なになった正蔵さんがドゲンジャーズに向き合うためには、本当の原点に立ち返る必要があったという方が、物語的だろうか。

ドゲンジャーズの面々も、大人になってからヒーローをやる、と決めて、誰にもなにも言われなかったわけがない。それでもそんなの振り切るほどの情熱で、「いい大人」が徹夜してまで夢中になった初期衝動を、「初期案のデザイン画」という形で具現化した演出が胸に響いて、というか、胸ぐら掴まれたみたいに衝撃だった。挿入歌が入り、スタッフロールが始まるタイミングにまで揺さぶられた。
大真面目にヒーローになると決めた大人がいて、ばらばらに初めた人たちがやがて出会って、一つの作品の中でその初期衝動を再確認し合うなんて、どれほどの確率の果てだろう。
声高に郷土愛を叫ばないドゲンジャーズにおける郷土愛は、唯一その土地で出会った仲間を通じて現れるものだから、あの光に満ちた教室のシーンは最高の福岡賛歌でもあったのかもしれない(ヤマシロン佐賀だけど)。

子供の頃の正蔵さんのように、馬鹿にされた経験がある人はそのことを救われた回かもしれない。今何かやりたいけど躊躇している人は、大人の初期衝動に励まされた回かもしれない。
私がもっと歳をとって、自分の定年が近づいた頃に見たら、正蔵さんが平成ライダーほぼ全部という偉業の後で勇退した高岩さんであること、12.5話でグレイトAを演じたのが、スーツアクターを引退して整体師として次のキャリアを重ねている伊藤さんであることにグッとくるのかもしれない。

救われ方は人それぞれでも、誰が見てもまぶしい。
よくぞこんな途方もないシーンを撮ったな悪の秘密結社。
しかしこれが最終回じゃないあたり、ほんとに一筋縄では行かないなぁドゲンジャーズ。

ところでグレイトZは正蔵さんが演じているけど、最初のグレイトAにアクターさんがいたなら、その人は正蔵さんのバディだったのかな。
来週(明日だけど)は陸がヒーローになるのだろうか。これまで、ヒーローたちの初期衝動をひとりひとりに語らせてきたけれど、陸がヒーローになるのはこれからだ。リアルタイムの初期衝動を目撃するのか、それとも、陸の中にずっとそれはあったのか。メインテーマとして繰り返し立ち現れる「特撮とはなにか」は、まだ語られ尽くしていない気がする。