これっきりになれない

どうしようもない気持ちの時、いつも思い出すフレーズがある。たぶんもう25年近く前の、モスバーガーのトレイの下敷きの紙に書かれていた小説「これっきりの夕暮れ」の、結びの一文。

「寂しいかい」「そうともさ」「切ないかい」「あったりめぇだ」

何かを失ったりすると、自分のなにが悪かったのかなとか、自分に悲しむ資格があるのかなと考えてしまう。そのときにこのフレーズを思い出すと、悲しさを素直に認められる。残念だけど人生には悲しいことも寂しいことも当然にあって、誰が悪いわけでもなくて、その悲しさを悲しんでいいのだと思える。
8人のエイトと、8人に戻ると信じていた頃の7人のエイトしか知らない私は、2019年の私の悲しさを認める。


エイトが5人になるんだって。そうなのか。一報を聞いた時そう思っただけだった私は、さっき突然エイトのことを考えて泣いてしまった。すごく楽しかった勉強会帰りに、上野駅のホームでほんとに突然。なんの脈絡も無く、「ほんじゃに!」のすごく寒そうだった春キャンプの回を思い出していた。すばるさんが、「わしら腹減っとんねん、食わしてくれぇやぁ」とヤカラ全開で釣りから帰ってきたところを思い出していたらぼろりと涙が出てきた。
もう10年以上まともにエイトを見ていない私が泣いたなんて書いてどう思われるかなと言うのはあるのだけど、今もここを読んでくれている人はおそらく私が8人のエイトを好きだったことを知っているくらい古い付き合いの人ばかりだと思うので、誤解を恐れず書いておく。


「ほんじゃに!」はすごくいい番組だった。大好きだった。メンバー8人にいろんなことをさせてくれて、いろんな顔を見せてくれて、ライブでしかやっていない曲を歌って踊るところを見せてくれた。スタッフみんなエイトのことが大好きで、エイトファンは関テレに敬称をつけて呼んでいた。

でも私がほんじゃにを好きだったのは、単にいい番組だったからじゃない。あれがお仕事だったからだ。

8人揃ってのお仕事なんてほとんどなかった。とは言え私はデビュー年からのファンなので、彼らが本当に暇だった時期のことは知らない。今思うと本当に色々中途半端だな私は。でもデビューしてからもレコメンで裕さんは暇だ金がないぱんつに穴が空いているといつも愚痴っていた。次のシングルがちゃんと出るのかも不安だった。ほんじゃには、8人揃っての貴重なお仕事だった。ほんじゃにはたまたまBSフジで見られたけど、あの頃の仕事は関西でしか見られないものがほとんどだった。そもそもコンサートからして。遠征はしないことにしていた私があっさりその禁を破ったのは、単に大阪でしかコンサートやってなかったからだった。


彼らに仕事を与えて欲しかった。仕事さえあれば、大勢の人の目に触れさえすれば、きっともっと人気が出るのに。たまの全国ネットでいちいち馬鹿みたいに爪痕を残そうとする姿に毎回わくわくした。かけもちのことがあったから余計にだけど、王道ジャニーズアイドルのNEWSと、決して正統派ではないのに正統派以上にものすごい人気と勢いを誇るKAT-TUNと一括りにされて、とにかくいつも危機感に追い立てられるようだったのは彼ら自身よりもファンの方が強かったかもしれない。


8人に戻らないとわかって、嫌いになりたくなくて無理やり見るのをやめた。いつしかどんどん人気が出て、たくさんの仕事をしている姿を意識せずとも見かける頃には、素直によかったねと思えた。もう見ていないし、応援もしていない。私は何もしていないけれど、どんどん仕事の規模を大きくしていく彼らに、やっぱりね、そうなると思ってたよと勝手に納得していた。だって彼らは本当に素敵なグループだから、人の目に触れさえすれば絶対にいい仕事をしてひっぱりだこになるってわかってた。

松竹座の舞台裏で、「僕らが頑張らないと下の子が頑張れない」と言っていた裕さんを思い出す。仕事を取るどころか作りに行って、がむしゃらに道を開いて、信じられない規模の仕事をできるようになった今、グループの存続が危うくなる時が来るなんて、そんなんありか。

多分私は今すごく悲しいのだけど、エイトが5人になったことが悲しいのではないと思う。そう思えるほど7人の彼らも6人の彼らも見ていない。

結局私のエイトは8人なのだ。8人のエイトができなかった仕事をしている今のエイトが、情熱や頑張りでどうにかなる次元ではないことに直面した。それほどの時間が経ってしまったことが、悲しいのだと思う。

5人で続ける決断をしたことも、すばるさんと亮ちゃんが離れる決断をしたことも、それ自体に私はなにも思わない。思う材料もない。ただ、ただ、そういう決断をしなければならないくらい時間が経つずっと前に、今ほどの仕事が彼らにあれば。絶対に絶対に、めちゃくちゃにいい仕事をしたよ彼らは。それが悔しい。悲しい。

自分でもものすごく矛盾したことを言ってるのはわかってる。彼らが紆余曲折を経て、歳を重ねて、そのなかでひとつひとつの仕事を果たしてきたからの今だってのはわかってる。彼らはただ時間を過ごしたのではない。彼らの今の仕事が、私が見ていた頃とは比較にならないほどの経験とスキルに裏打ちされているのだろうと言うこともわかっている。


すばるさんと亮ちゃんの決断になにも思わないというのは厳密には嘘で、正直なところ、アイドルとかファンとか関係なく、人生を折り返した中年としてものすごく気持ちがわかる。わかってしまう。ましてや子供の頃から同じ仕事をしてきたとなると。だからこそ、続けると決めたヨコヒナの決意の重さもわかる。

エイトは最後の青春だった、と、私は言ってはばからない。エイトの後もいくつかのものにはまってとても楽しく過ごしているけど、結局あれからずっとオタクとしての余生を過ごしていると思っている。
まぁそうやって勝手に降りて余生になれる私が、これからも自分の人生を切り開いていく彼らになにを言うこともできない。でも。
悲しい時も嬉しい時も、エイトメンバー全員の、健康と幸福だけはずっと祈ってる。