全部台所の話

最近知り合いがぱたぱたっとご結婚されることが続きまして、おめでたい、うらやましいあやかりたい
うらやましいは置いといて、おめでとうを言うと、「どうやったら料理ができるようになる?」とほぼ確実に聞かれます。男女平等だ共働きだと言っても、「家庭」と言う括りになったらまぁ結局女の方がそこんとこ担わなきゃいけないのがまだまだ普通なんだなと実感します。良い悪いでなくそうなるんならそれでどうかしなきゃいけないんだろうというのも。


先に言っておきますと、私は料理がすごくうまいわけではないです。ネット上の知り合いの人はインスタを、同僚は私のお弁当を見ているので料理について聞いてくるのだと思うのですが、凝った料理を作る根気も、新しいレシピを開発する才能もありません。独身で子供も猫もおらず、自分が食べたいものを自分が食べたい時間に作ればいい、疲れてたら外食でもカップラーメンですませてもいいというごくふつーの独身者です。誰かのために作らねばならぬと言う人とは背負っているものが違います。
ただ、そう言った義務感がなくても、自分ひとりのために毎日ご飯を作ることがまったく苦にならないと言うだけです。あと、作ったは良いがまずくて食べられないと言うことはほとんどない(ゼロではない。2回くらいはある)。で、結婚して切実に料理ができるようになりたい友人に言わせると、その「苦にならない」状態に持っていく方法が知りたいんだそうです。超人的にうまくなりたいわけじゃないがやらねばならないのならせめて苦しみたくないと。


私が唯一、人に伝えられることがあるとしたら、自分が料理と言うスキルを身に付けた過程を結構記憶していると言うことです。家庭を持って無我夢中で家族のために作っているうちにどうにかなった、と言う自転車に乗れない人の気持ちがさっぱりわからない系の答えは友人も飽きていると思うので、私が使っている料理の本と、過程だけ書きます。


私は今36歳ですが、料理を始めたのは30歳の時でした。母が専業主婦で料理がうまかったので、30年間料理を作る必要は全くありませんでした。
2009年の2月の私は、年明け早々の内博貴ソロコンサートを見て、どうもエイトは8人に戻らないらしいと察してジャニオタを辞めるのを決めたため、めちゃくちゃ暇でした。


しかしなにかにはまっていないと働けないため、とりあえずなにかやろうと思ったときに一番楽しんでいたのがNHK生活ほっとモーニング」内の「夢の3シェフ共演」でした。これは和食の中嶋先生、中華の孫先生、イタリアンの落合先生が同じテーマで和・伊・中の料理を作るところをライブで見せるというコーナーでしたが、作る料理の見事さもさることながら3人が仲良しできゃっきゃしててそのくせ料理には真剣でとにかくかわいいという理由で結構夢中でした。
このコーナーの素晴らしさをブログに書きたい、そのためには「母に作ってもらった」では恰好がつかない、じゃあ自分でやってみよう、これが私の料理をやり始めた動機の全てです。
そして初めて作った落合先生の「エビのトマトクリームパスタ」のおいしさに衝撃を受けます。こんなお店みたいな味が自分でできるのか!と感動しました。母が作る料理もとてもおいしいのですが、それは主婦歴30年のなせる技だと思っていたので、今日料理始めた私が作ってこんなにおいしいと言うのは100%レシピの力です。私はここでプロのレシピと言うものに全幅の信頼を置きました。
そこから毎週、週末に3シェフのレシピと落合先生のパスタを作るようになりました。


3シェフに夢中だったころのエントリはこの辺にあります。2009年の9月から本格的にお笑いのライブに行くようになったのでブログでの記述は多くないですが、週末に料理をする習慣は続きました。豚肉とゴーヤの涼麺を作った時、孫先生に一生ついて行こうと決め、きのこの汁そばを作った時の隠し味のれんこんで中嶋先生のすごさを実感しました。
3シェフのご本は2冊出ています。

NHKあさイチ 落合 務 中嶋貞治 孫 成順 夢の3シェフ 四季のレシピ (生活実用シリーズ)

NHKあさイチ 落合 務 中嶋貞治 孫 成順 夢の3シェフ 四季のレシピ (生活実用シリーズ)

最初の「エビのトマトクリープパスタ」は3シェフの本には載っていないのですが、この本に収録されています。元々父がパスタ気違いだったので、実家の土日の昼は必ずパスタでした。それで、落合先生のご本を買い足しました。
落合先生のレシピはどれもおいしい。これも結構すぐめぼしいのを作り終えてしまいます。落合先生のご本はたくさん出ていますが、やっぱりどれにもカルボナーラは載せにゃいけんしと言う感じで結構レシピが被ります。じゃあ他の人のを買うにしてもその人のレシピがうちの好みとは限らない。落合先生のお弟子さんならどうだろう?と加藤先生のご本を買ってみました。
ぼくの好きなパスタ -Sento Bene料理教室からあなたへ-

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予約のとれない料理教室―「Sento Bene料理教室」の人気イタリアンレシピ (MARBLE BOOKS―daily made)

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この加藤先生のレシピがうちの好みにどんぴしゃでした。落合先生は日本における本格イタリアンの草分けですから、チーズもクリームもがっつりの濃厚なレシピが多いですが、加藤先生のはそこから少し日本人向けにアレンジしてある感じがします。加藤先生のご本は、普通の材料を使っているのに、どのレシピを作っても感動するほどおいしい。またたく間に3冊買いそろえて今もヘビロテです。


後になって知ったのですが、ひとり先生を定めてその人のレシピを作り続けると言うのは、料理上達の早道なんだそうです。
私はとにかく動機が「3シェフのレシピを作りたい」だったので、たまたまその道を邁進できたのはラッキーでした。その通りにやれば必ずおいしいものができると言う信頼があるから、勝手にレシピをアレンジしようと言う頭がありませんでした。3シェフがどれだけ工夫して、プロの味を家庭で再現できるよう苦心しているのかが見てわかったから、勝手に手順を省くこともしませんでした。3シェフが必要だと言うなら必要な工程なんだろうと。アレンジしないから失敗しない。失敗しないからまたやりたい。その繰り返しで1年たつころには、パスタに関しては大体の勘所が分かって、完全にレシピ通りやらなくてもおいしくできるようになっていました。最初から無理にアレンジしなくても、基礎を繰り返せばアレンジする技術は身に付くのだとわかりました。
そして母に言わせると、私はパスタを作り続けることによって大体の食材の扱い方がわかっていったのだそうです。自分じゃよくわからないのですが。甲殻類にはオリーブオイルでなくバターだ、とか、葉っぱものは最後に投入する、とか、そういうことでしょうか。


このころのクックパッドがどれくらいの勢力だったか覚えていないのですが、素人の投稿するレシピサイトは当時から全く使っていませんでした。今も検索の際は常に「-クックパッド」と入れています。素人がたまたまおいしくできたものを素人が再現しておいしいわけがないと言うのが理由です。レシピを信頼していないと自分で勝手なことをやりたくなる。結果が安定しないと作りたくなくなる。ネットで見るのは基本が「みんなのきょうの料理」の放送されたレシピと、キッコーマンと味の素、たまにレタスクラブネットです。


お弁当を作り出したのがいつなのかはっきり覚えていなかったのですが、過去の給与明細を見たら2009年6月の半ばで仕出し弁当を頼むのをやめていました。うちの会社は近所に蕎麦屋とコンビニが1軒ずつあるだけで、仕出しの弁当が食べたくなかったら作るしか選択肢がありません。毎週末に1週間分作っておいて、5日間同じものを食べています。夜は2日と続けて同じものを食べたくないのですが、不思議と昼に関しては全く同じものを食べ続けても平気なのでそうしています。


お弁当を作る際に必携なのが、「きょうの料理ビギナーズ」です。
月刊誌なので旬のものが載っていて、メニューに悩まなくて良いというのがひとつ。そして、料理の仕方だけではなく、常に食材の扱い方から教えてくれるありがたい教科書です。

きょうの料理ビギナーズ」は兼業主婦向けで、本家「きょうの料理」が専業主婦向け、と勝手に思っています。なぜなら珍しく「きょうの料理」を買ってみたら1品目から材料に「いりこ」と書いてあって、そこで初めて自分がいりこを持っていないことに気付いたからです。ビギナーズの方は出汁取るような料理はほとんど出てきません。


もうひとつ、お弁当を作るときに必ず一度は開くのがこの本。

病気になったバーテンダーの罪ほろぼしレシピ

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バーテンダーがカクテルを作るように、材料にかかわらず煮汁の材料の割合が決まっています。これがあればほぼすべての野菜を甘辛煮か塩煮かきんぴらにすることができます。しかもおいしい。私のお弁当は、肉か魚の主菜が1品、野菜の副菜が3品、サラダ的なものが1品で、それになるべく醤油味・塩味・味噌味・辛い味・酸っぱい味を割り振るのですが、いざとなれば甘辛煮と塩煮で2品いけると思うとすんごい簡単です。本は台所には置かないのですが、この本だけは台所のストッカーにいれてあります。


そんな数年が過ぎ、自分はパスタとお弁当だけは作れる人だと思っていた時、姉の出産のために母が4カ月ほど家を空けました。2013年の8月〜12月。その時初めて、自分がパスタ以外の夕飯の献立も立てられるようになっていることに気付きました。なまものと汁物が選択できる分、お弁当より献立のハードルが低かったのです。


きのう何食べた?』のシロさんのレシピも良く作るのですが、この漫画に出てくるレシピは、料理を初めて1年くらいは私には出来なくて、母に作ってもらっていました。結構感覚的なところがあって、慣れた人でないとむつかしいように思いました。今は作れます。


料理の本を買うのはとても好きですが、「時短」とか、「作り置き」とかのテーマで買うことはほとんどないです。誰が作っているかで決めます。コウケンテツさんとウー・ウェンさんにはお世話になっています。

鶏本―家族の味、僕の味。韓国・和洋中レシピ50

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ウー・ウェンの黒酢でおかず

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ウー・ウェンのねぎが、おいしい。

ウー・ウェンのねぎが、おいしい。


私はとにかく本に書いてあるものをそのとーりに作るだけなので、意地悪な人に「本の通りに作るなんて家庭の味と言えるの?」みたいなことを言われたことがあります。しかし慣れた醤油と塩で作ればどんなレシピも他人行儀な味にはならないです(なので醤油と塩だけは実家と同じものを使った方がいいと思う。砂糖は違っても平気だった)。
うちの母はコロッケしか作れない状態で嫁いできて、この3冊の本首っ引きで新婚の日々を乗り越えたそうです。

おそうざいふう外国料理

おそうざいふう外国料理

おそうざい十二カ月

おそうざい十二カ月

一皿の料理

一皿の料理

今見ると特に「おそうざいふう外国料理」に我が家おなじみのメニューがあるある。本の通りでもその家で食べ続けられればゆるぎなき我が家の味になるものだなぁと思いました。


繰り返しますが、私は人に誇るような料理を作れるわけでもましてや開発できるわけでもなく、誰に合わせる必要もなく自分一人分好きなように作ればいいだけののんきな立場です。ただ、台所に立つ気易さはバナナの皮をむくのと同じ程度です。どうやっても食べなきゃいけないのだから、これが苦にならないことはだいぶん楽なんだなと、一人暮らしを始めて知りました。と言うのも、私は風呂掃除がものすごく嫌いで、風呂掃除をしなきゃいけないと思うともう嫌で嫌でいっそ風呂はいらないですむ方法はないものかと考え始めるくらい嫌で、これがご飯たんびに襲ってくるとしたらそりゃつらいよなと思った次第です。最近は湯冷めしないから風呂入ったついでに掃除してるのでそんなにつらくないけど、冬はもう嫌で嫌で嫌で。
もしも私の友人たちが、流しの前に立つたびに、舵も櫂もない小舟で荒海に放り出されたような心細さを感じるのならば。クリエイティブなことをしようという意気込みもポジティブで宇宙的な広がりもいらないから、誰か一人信頼できる先生を見つけて盲従すると言うやり方で、日々乗り越えていけばいつか思いもよらぬことができるようになっているのではないかと、台所からは以上です。