名前を呼んで

K-PRO 10th BEST LIVE〜
『行列の先頭25 in渋谷さくらホール』


5/27 渋谷・さくらホール 19:00



2階席のあるホールでお笑いを見る機会が、NGK以外にあろうとは。K-PROさんの10年を結集した大きなライブ。無事満員御礼だったようでK-PROファンの一人として嬉しく思った。風松ファンとして、あの場に風松がいた事も嬉しかった。


しかし規模や、メンツの豪華さや、K-PROさんの10周年、それら全部を振りにして、スパローズの株がストップ高を記録したライブだった。正しく言えば、ライブ後に。



この日のスパローズのネタは、大和さんが芸歴1年目の自分に向けた手紙を読むネタだった。紙を持つと、どんな芸人さんも手の震えがよくわかるものだけど、大和さんの手も震えていた。まさか新ネタ故の緊張とは思わなかった。


時間を戻せばOPで当たり前のような顔をしてMCとして出てきたスパローズは、児島さんがつけている芸人さんの能力をランク付けしたメモで自分たちのネタはDランクだと言っていた。行列の先頭に出るのはBランク以上だから、自分たちの事は「Dにしてはおもしろい」という目で見てくれと。


さらに時間を戻してOP映像、この10年にK-PROライブに出演した色んな芸人さんの台詞が次々に流された。3組のライブ(仮)で大好評を博した演出の進化版だとすぐにわかった。その最後、スクリーンの真ん中にたったひとつ映されてホールに響いたのはスパローズの「トッパレ優勝は」だった。
スパローズは俺らだけネタの台詞じゃないと文句を言っていたけど、K-PROさんのこの10年を集約した一言は、スパローズが毎月言っているあの言葉だった。


最初はゲストだったのにいつの間にかMCになっていた、児島さんはおれらのネタを評価していないというのはスパローズの持ちネタみたいなもので、いつもどれだけネタから逃げ回っているかは客席も承知の事だ。児島さんも「スパローズさんネタ嫌いでしょ」と言って無理強いはしていない。
そのスパローズが、新ネタをおろした。考えるまでもなく新ネタに向かない大きすぎるホールで。
事実としては「新ネタをおろした」だけだけど、そこにいろんなことを想像してしまうのは許して欲しい。




お笑いのライブに足を運ぶようになって5年弱経つけれど、「お笑い好き」とは口が裂けても名乗れない。趣味を聞かれると(「読書」でお茶を濁しきれないときは)「ライブを見に行くのが好きで最近はお笑いのライブに行く回数が多い」というのが一番嘘をつかずに済むのでそういうことにしているけど、ほんとの事を言えばちょっと違う。
私は、お笑いだろうとアイドルだろうとバンドだろうと、好きな誰かが好きな誰かを大切にしたりされたりしているところを見るのがたまらなく好きだからライブに行くのが止められない。提供されるエンタテイメントのジャンルに関わらず。
その、大切だと思うベクトルの向きによって、コンビ愛だったり尊敬だったり応援だったり疑似恋愛だったり萌えだったり共犯だったり、数え切れないほど色々あるけど、とにかくそれが見たい。


だからその逆、好きな人が粗末にされるところを見るのがとんでもなくつらい。十把一絡げがいちばんつらい。


児島さんはかつて「コジマ」と表記されていて、男性なのか女性なのかもわからなかった。私もずっと、率先して客入れをしているあの人が代表だと思わなかった。
どうやって児島さんがあの人だと認識したのか覚えていないけれど、スパローズが舞台上で児島さんの名前をよく呼ぶようになった頃だと思う。
スパローズは児島さんの名前を出しては、どんなにお笑いが好きな人か、とか、どんなにケータリングが充実しているか、とかを少しずつ客席に教えてくれた。うすぼんやりしていた「コジマ」さんが、どんどんはっきりした輪郭を持っていった。
児島さんが出演者としてライブをやっている今は、全部その続きだと思う。


その児島さんが10年目のライブでスパローズに託した信頼と、それに応えたスパローズの新ネタを見てきた。どちらも形のあるものではないのに、硬く確かな手触りがあった。


「製作会社」ではなく「K-PRO」、「主催者」ではなく「児島さん」、「芸人さん」ではなく「スパローズ」。ひとつずつ名前を呼び合う事は、お互いの胸にひとつ勲章をつけてあげるような行為だと知った。
ライブに行くのは、そんな胸に輝く見えない勲章を見に行くことだ。これからも。10周年おめでとうございます。


お笑いナタリー|K-PRO10周年一週間ぶっ通し興行、珠玉ネタで大団円