- 作者: 田村元
- 出版社/メーカー: 本阿弥書店
- 発売日: 2012/07
- メディア: 単行本
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「あとがき」を読んだらほぼその通りだった。歌のひとつひとつに、今住んでいる土地、かつて住んでいた土地、かつての自分とそこで見たもの、今の自分とそこで見るものが、入れ替わり立ち替わり、絡まり合いながら現れて、心模様と日本地図が重なって見えるようだった。
歌集の題にもなっている一章目の「北二十二条西七丁目」は、19首。全371首の歌集の中で、北海道時代の作品はこれだけであるのに、読了までずっと、札幌の街の寒さがどこかに一筋流れているのを感じていた。
口笛に校歌を吹けばあたたかきくちびるが行く北大通り
歌人の14年をものの1時間で読んでしまったことに罪悪感もある。1977年生まれの歌人と私は年も近い。勤め始めてからのだんだん乾いていくような感触は、もどかしさと同時に奇妙な明るさがあることが同じ勤め人としてわかる。
伊勢海老のやうにぷりぷり働きて流されてゆく一日もいい
かまぼこのやうに月日を刻みつつ時に分厚い一日に会ふ
私にわからないのは伴侶のいる生活だけど
疲れ果てわが寝室に入り行けばシェーのポーズで熟睡の人
この歌からはもちろん星野源の「喧嘩」の
昨夜の寝相は
シェーするイヤミに似てる
を連想するのが自然だから、「伴侶=シェー」というたぶん偏った理解を持ってしまった。
年をとったことや、土地を変わって生きていくことを嘆くのではなく、見ることも感じることも、年と共に変わっていくけれど、それをひとつ錘をもって歌い留めている。その錘は、歌人が過ごした土地土地につながっているのだろう。
過去を賛美することはたやすいけれどそうはせず、みずみずしい学生時代を初めとする過去を遠い風景のように心に眺めて、年を重ねている。歌人の「青春の碑」には、いつまでも粉雪が降っているのだろうと思った。