大漫才師

エルシャラカーニ第3回単独ライブ「野菜」
7/16 新宿シアターモリエール 18:00


エルシャラカーニの単独ライブには行くという選択肢しかなかったけれど、なにをやるかはまったく想像していなかった。漫才師の単独ライブはたいていコントもする。例えば漫才だけで1つのライブをしたりすることは、普段漫才しかしていないコンビにとっても喧伝に値するチャレンジだ。
だから、70分の漫才が始まって10分くらいだろうか、やっと、これ続くんだとわかったときに居住まいを正した。ずっと笑い続けて、全然終わらない。こんなすごいことをするつもりだったのか。60分を過ぎて、最後のネタが意図するものがわかったとき、再び背筋を伸ばした。なんて良いものを、そして本音を、見せてくれているんだろう。彼らだけを見に来た客がその目撃者に最もふさわしいと、お金を払っていながら変な話だが、信頼されたような気がした。過去も未来も知らずとも、今この場にいる人たちがこの漫才を見ている。


エルシャラカーニにはブログがない。清和さんはツイッターもやっていない。
STOCKでの漫才師の本音を聞こうと言うコーナーでも、回答のほとんどをしろうさんにまかせて煙に巻いていた。そういうところ、真面目に語るのは違うと思っているんだろう。THE MANZAIの決勝に行ったことも、最後までドッキリと疑っていた清和さん。だから、なにを考えているのかがあまりわからない。一度行ったトークライブは、漫才の延長のように二人がしゃべっていた。
漫才はいつも正確無比で、どこまでが台本でどこまでがアドリブかわからない。そんなふたりの本音を初めて聞いたような気がした。トマトは、勝ち上がるのだ。


すごいなぁと、ひれ伏してだけいればいいのに、すごければすごいほど砂浜の中の砂金が光るようにそれとは違う部分を愛でてしまって、これはもう業みたいなものなのかしら。
何度も何度も放たれる清和さんの「帰ってこい」。その場に居ながらどこかにいってしまうしろうさんを、最高のタイミングで呼びもどすその一言が、聞くたびかわいくて仕方なかった。一度「膝に来てる」と座り込んだしろうさんは呼んでも呼んでも帰ってこなくて、最後には蹴り飛ばして帰ってこさせてたけど。
帰ってこいといえば、帰ってくる。帰る場所と、帰る人。その了解が、約束が、かわいかった。


そう、偉大さだけではエルシャラカーニを語るに足りなくて、長い長い漫才の後始まったまさかのコントは、コントと言うよりもう「清和さんとしろうさん」だった。漫才中力量に圧倒されていた愛嬌がだだ漏れ。記憶喪失になったしろうさんに、真っ先に「事務所ライブ」を心配する清和さん。
OPの漫才、黒ずくめの清和さんと黒いタンクトップのしろうさんは、わざわざおめかししてきた意気込みの可愛さが、正装のかっこよさと拮抗してたいへんなことになっていた。


最後のネタは、しろうさんのタンクトップに「し」の字のアップリケがあるほかはすべていつも通りだった。いつもの尺で、いつものエルシャラカーニらしいネタだった。内容を全然覚えてない。そしてあっさり捌けていった。エンドトークでは長尺の漫才に触れることもなく、ただしろうさんが吹き込んだお土産のテープの話をした。
かっこつけようと思えばもっともっといくらでもかっこつけられるだろうに。かっこいいのにかっこつけない、大人の男の単独だった。かっこいいとはこういうことさと、それすら言わなかった。

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