ふたりのクズに花束(代)を

スパローズ初単独ライブ「クズ&クズ」
5/12 新宿シアターモリエール 19:00


開演前のアナウンスで「今日はできる限りのお金を落としていってください」と言う単独が他にあろうか。都内クズ界隈に於いても常に一段上のクズっぷりを見せつけるスパローズの初単独。やりたくてできなかったのではなく18年逃げ続けたという札付きの単独ならば見に行かねば。事前のおわナタさんのインタビューでも「単独が担保」ってあきれるを通り越して感心していたけど、まさかそれすら超越するとは想像だにしなかった。


客電が落ちて聞こえてきたのはM-1の出囃子。客席から起こる笑い声。そしてスパローズが両袖から出てきたときの拍手の大きさ。しかも鳴り止まなくて森田さんがタモさんみたいにチャッチャッチャとやって止める。「森田:あの曲だけで笑いが起こるとは、よくわかってるお客さんで」と言うのを待たずとも、なんというか、非常に盤石な客席であることはすぐにわかった。
最初の漫才でいきなり売り切れた缶バッチについて原価をばらしたり「大和:もっと作ればよかったー!」と叫んだり、途中で「森田:トークライブにする?」「大和:かまわない」とやりとりしたり、もうスパローズ全開!という感じで、これぞ単独だなぁと彼らを深く知らない私もすっかり引き込まれた。そして、その後のOPVでもう完全に持って行かれた。
地下室のような暗い店で、延々トランプやったりテキーラ飲んだり隣の客にちょっかい出したりするスパローズのふたりに、おそらくこれからやるであろうネタのタイトルがストップモーションで差し挟まれる。これがもうかっっっっっっっっっこよくて! くわえタバコも酒も賭けトランプも(賭けてると決めつけてる)、すべてのアウトローな雰囲気がふたりにぴったり! 誰が作ったんだこれ!
考えてみると私の周りに、フライヤーを見てそのあまりのかっこよさにこのライブに来るのを決めた人がふたりいた。彼らの周りには、彼らを愛する才能あふれる人がたくさんいるようだった。


ツイッターの方で、OPの曲がArctic Monkeysの「When the Sun Goes Down」だと教えて頂いた。

When The Sun Goes Down [Explicit]

When The Sun Goes Down [Explicit]


ネタは漫才が2本で、あとはコント。彼らのコントは初めて見たけどうまかったなぁ……。「地下室にて」だっけ、改造のコントのプロデューサーのくだりに息ができなくなるほど笑った。「わくわく動物ランド(王国かも)」は普段の漫才とは全然違うキャラクターだったけどそれがすごくしっくりきてて、これが18年の底力なのか。思ってたよりずっとずっと、様々な技術に長けた人たちだったんだと知った。MCの技量はもちろん知っていたけど、漫才しかできない不器用なタイプの芸人さんだと思っていた。


あらゆる漫才・コントの端々に現れる彼らのクズっぷりに、すごい笑いと拍手が起きていた。普通のお笑いライブの拍手笑いとはちょっと違う、彼らの突き抜けたクズとしての技量に対する賞賛と感嘆と尊敬が込められた拍手だった。まっっったく褒められたことでなくても突き詰めれば尊敬の対象になるのだと知った。
最後のコント「クズ」、「おかえりー!」「ただいまー!」ともつれ合って喜び合うふたりのはじけるような笑顔は、甲子園で優勝した高校球児のようだった。爽やかさのベクトル真逆だけど。
最後のコントが暗転していく中、ちょうど真っ暗になった瞬間かかっていたのがユニコーンの「すばらしい日々」の「いつの間にか僕らも 若いつもりが年をとった」の部分で、うわぁ……と思っていたらそのあとのエンドロールはもう反則だった。


OPの映像の続きと、スタッフロール。そのスタッフの中に、舞台監督としてK-PRO代表のコジマさんの名前があった。その時点でかなりグッと。そして流れるのがブルーハーツの「終わらない歌」。

終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう すべてのクズ共のために
終わらない歌を歌おう 君や僕や彼等のため
終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように


誰もが察したことを改めて文字にするのはほんとうに野暮なのだけど、「終わらない歌」はお笑いなのだろう。彼らが芸人を、お笑いを続けているかぎり、終わらない歌は鳴り止まない。
彼らに歌って欲しい人たちがたくさんいた。舞台を作れる人たちが、よってたかって、腰の重いクズたちに単独をさせた。歌えるのは彼らだけで、彼らが止めたら、終わらない歌はそこで終わってしまうから。思えば事前のおわナタさんの力の入れようもすごかった。
いつか見たなぁと思ったら、キャプちゃんの単独だった。あれも、素敵なフライヤーと、OPVに胸が熱くなった。


「クズ」というジャンルが確立されて久しいけど、はっきりとした定義なんてあるんだろうか。幕間のVはスパローズの周囲のクズたちを紹介するものだったのだけど、出るわ出るわ、しかもそれぞれ専門?が違うみたいだった。友人にすら金を貸さない借りないつまらない勤め人としては、どうして彼らがやっていけるんだろう……と疑問にすら思えないほど別次元の人々だった。
ただ、彼らを支える人がいるというよりは、支える人がいなければ彼らはやっていけないのだろうとは思った。というのも、紹介されたクズのなかにひとり、音信不通の人がいたから。芸人さんとして私たちが目にするクズの人々は、表に立っていられる程度、支える人たちがいるのだろう。
昔読んだ『花咲ける青少年』に「ほうっておけない、この人のために何かしたいと思わせる力、すなわち「カリスマ性」というヤツです」という台詞があったのを思い出した(細かい言い回しはうろ覚え)。クズとカリスマって表裏一体なのかも知れない。エンドロールの最後、酔いつぶれて寝てしまったふたりの映像を見ながらそう思った。


チケット代を間違えた、赤字だ、打ち上げ代がないと叫んでいたふたりは、ほんとに階段のところで募金箱を持って立っていて、大和さんはすでに一杯ひっかけたのか赤ら顔だった。その顔を見たら思わず知らず「お疲れ様でした」と言ってしまった。ただやってくれたという事実に労いとありがとうを。「おもしろかったです」もちゃんと言えた。大和さんはへにゃっと笑ったので、ああやっぱりカリスマじゃないわ、クズだわと深く満足して外に出た。