トップリードの日

ライブで見なければおさまらない。そう決めて、ひさしぶりに5556ライブに行ってきた。トップリードや三拍子をはじめとする、昭和55年、56年生まれの東京アナウンス学院出身者が中心になってやっている仲間内のライブ。以前一度だけ行ったことがある。寒い時期だったように思う。メンバーは何組か増えていた。9月26日。この日は三拍子がお休み。


ABCマートの横の掲示板に張り紙があった。蛍光ペンで書かれた「トップリードいます!」。エレベーターを待っていると、それを見つけた女の子二人が「なにこれー」と言って笑っていた。彼女たちはライブを見に来たのか、通りかかっただけなのかはわからない。エレベーターには乗ってこなかった。


会場は満員に近かった。以前行ったときの倍くらい。OPはトップリードに対するメンバーによる記者会見。カメラを持たずジェスチュアしながら、シャッター音を口で言うメンバーに、なにもかもをたったふたりでまかなうトップリードのコントを思い出した。
一人ずつ質問して、和賀さんか、新妻さんか、ふたりともが答える。和賀さんの答えをよく覚えている。
「リハのときに床がちょっと滑るってなって、片輪走行のとき滑るかもしれないから滑り止めをつけてもらったんです。でも俺の方はキュッキュ鳴ってうるさいからとってくださいって言ってとったんです。そしたらあのザマです。」
「これは2700さんにも言いましたが、目の前にキリンの着ぐるみとラケットがあっても、あのネタは思いつかない。あれはすごい」
「間違えて傷跡って言っちゃってるんだもんなぁ……」
「あの席に座られたということは、おやめになるんでしょうね。嬉しいです」


ことさらにおもしろくするでも、ことさらにかなしくするでも、なく、記者会見はかねきよさんが滑り倒して終了。メンバーもお客さんもわかっているから、滑っても寒くならない。またそれを、かねきよさんがわかっているから、ネタになっても大いに自由。好き放題のかねきよさんを石沢さんが制して、「トップリードケツあるんだよ!」と叫んだのが少し誇らしげに聞こえたのは気のせいか。かねきよさんは「ケツはみんなにあるよ」と言ってお尻を突き出していた。
かねきよさんはオチまで飛ばし、「この次はトップリードですから、絶対おもしろいからご安心ください」と予言した。石沢さんがサイコロを振る。出た目は1。


かねきよさんのお告げ通りに、次に出てきたのはトップリード。レコメンに行かねばならないから出順が早かった。この日のネタは「ヒッチハイカー」。和賀さんが首を真っ赤にしているいつも通りの「ヒッチハイカー」。


キャラクターコントでは、トップリードの出演が多かったように思う。ただ比較対象が以前見た1回だけで、そのとき和賀さんはキャラクターコントには出ていなかった。このライブでは、人の書いたネタを演じるトップリードが見られるのが良い。破綻しそうな設定も無理のある筋立ても、トップリードの本ネタにはないもの。


企画のコーナーはみんな少し不安そうだった。途中、「トップリードさーん! 三拍子さーん!」と誰かが叫ぶ。でも仲の良さで成立していた。




帰りの電車の中でradikoを起動した。22時30分過ぎ、トップリードの出演コーナーは始まっていた。この日のメールテーマは「祝!トップリード キング・オブ・コント優勝! おめでとうメール大募集SP」。つまり「優勝すると思っておめでとうメール募集しちゃったから、何位であっても優勝したテイで喋ってね」と言う無茶ぶり企画。
私はトップリードとレコメンが、どのくらいのつきあいなのか知らない。トップリードにラジオが得意と言う印象もない。しかし電波の向こうの新妻さんは、どう聞いても絶好調だった。流暢に点数を捏造し、おめでとうメールに「ありがとう」と言う。嘘じゃん!と乗っからない和賀さんの戸惑いを置き去りに、K太郎さんの爆笑が響く。
活き活きとでたらめを並べ立てる新妻さん。ストッパー役をしながらつっこむ和賀さん。なんておもしろい芸人だろう。そう思った。コント師ではなく、芸人と。
嘘と嘘の間に本音が覗く。ゆうぞうさんが「よく、がんばった」と言って抱きしめてくれた。すぎさんも抱きしめてくれた。じゃいさんは、順番がしょうがなかったねと言ったのではなく順番が効を奏したねと言ったことになっていた。まっさきに駆け寄ってきたのはやついさん。写真を撮ろうと言ってくれた。「チャンピオンと撮りたかったんでしょうね」と嘯きながら、そのときやついさんは「よしお前らか」と言っていたと教えてくれる。
チャンピオンになって絆が深まりましたと言う新妻さんに、和賀さんが待ったをかける。「8位でも絆は深まったと思うけどね。これからがんばっていこうってなってたと思うよね」。


新妻さんが「泣いても良いですか」と言って、茶番は終了。楽しい楽しい茶番劇。毎年やってくださいと言う新妻さんに、「8位だったからおもしろかったけど、2位だったら痛々しいだけ」と和賀さんが言う。決勝には行かないと成立しないネタ。最後に告知と共にDVDが売れていると言ったことは、本当であってほしい。もっとネタを見たいと思わせたのなら、トップリードの真価の一端は伝わった。




トップリードを、エリートだと思っていた。初めて見たときから2年以上ずっと、彼らはほぼ確実に受けていた。月笑では常勝と呼ばれるにふさわしく、トッパレでもいつも上位だった。
なにより、彼らは一度だってコントに手を抜かなかった。風邪をひいても宿酔いでも、ごく稀に思い通りに笑いが取れないときだって、ふてたり逃げたりしなかった。だから彼らが、苦労しているなんて思ってもみなかった。どんなときでもあまりにも楽しそうにコントをするから。
10年間単独ライブをする機会がなかったことも、オンバトで5年半オンエアがなかったことも、KOCの事前番組で、うまくいかない、上に上がれないと本人たちが言っているのを聞いてもまだ、私には実感が持てなかった。そんなにいばらの道を歩んでる人が、あんなに楽しそうにコントができるのか? そこが結び付かなかった。
KOCの決勝でトップリードを見て、初めて実感した。それはこういうことだったのか。


ライブで受けても、テレビで受けないコントがある。認めたくないけど痛感した。いつも通りなのに、伝わってこない。あんなに面白いネタなのに。でもそれはネタが悪いとかトップリードが悪いとかじゃない。「これがテレビだからだ」。
逆もあるだろうし、両方もあると思う。でもトップリードが今まで磨き上げたコントは、テレビの画面を通しては伝わらなかった。じゃあなんでオンバトだと伝わるのか、ということはまだわからない。
あんまりだ。決勝だけ種目が違うことも、ひょっとしたらたまたまテレビで受けるコントを選ぶ芸人だっているかもしれないのに、よりによってトップリードがその道を選んでいなかったことが、それを、ほかならぬ決勝の本番で知ることが。


終わってすぐに思ったことがあった。ひょっとしたら、トップリードはもうKOCにエントリーしないんじゃないか。ライブシーンでは正解なのだから、ライブで今のコントをつきつめる道だってある。それで食べていけるかどうかは別にして、今のままでもトップリードはまちがいなくおもしろい。
でも彼らは来年と言った。これからがんばっていこうと言った。私は、ネット上での発言はオフィシャルなもので本音ではないと思っている。けれど、ラジオを聞いたあとの今なら、決勝翌日の新妻さんのツイートを信じられる。
「我々変わらず楽しくネタをやり、これを教訓に上を目指します。」
そして自分が彼らを見くびっていたことを謝る。


トップリードはこれから1年かそれ以上をかけて、決勝の舞台に負けないコントを作るのだろう。どれだけの産みの苦しみがあるか想像もつかない。ひょっとしたらまた一から積み上げるのかもしれない。けれど、決勝を経験したトップリードがやると決めたのなら楽しみに待つ。これがたぶん、うまくいかない、上に上がれないと言っていたトップリードの、トップリードたる時間を見守ることだ。


トップリードは大丈夫。ただ、都下に数組いるトップリードチルドレンたちが少し気になる。トップリードで伝わらなかったのだから、あの道はもうむつかしいのではないか。少なくともKOCを目標にするなら。トップリードがあの道の先の何かを見せてくれるのを待つ時間は、彼らにもきっとないはずだ。