天の焔を取って来て

共感百景
北沢タウンホール 19:00


スラッシュパイルが主催で、又吉氏が出るなら文系イベントだろう。それに星野源氏が出るとな!と何も考えず申し込んだプレリザーブが当たり、内容も他の出演者も知らないまま行ってきた。
MCがオードリー若林氏で声を上げて驚いてしまった。スーツ姿も久しぶりに見る。本人も、「この場所でこのメンツなら司会は山里さんだと思ったかも知れませんが」と言っていた。そんな若林氏、終始一人称が「わたくし」か「私」で、深夜の通販の司会みたいなテンションだった。


本来ならば、若林氏と並んで歌人俵万智氏が解説をするはずだった。震災の影響でこられなくなってしまったと、長い手紙を託され、若林氏がそれを読む。このような未曾有の事態の前では言葉は一片のパンほどの力もないのかも知れない、しかし言葉と笑いこそがこの状況でのちからになる、と言うような真摯な内容だった。息子さんから又吉氏と春日氏のサインを頼まれていたそうだ。
その手紙の中に、参加できないとなってこれはもう穂村弘さんか枡野浩一さんに席を奪われたと覚悟していたが、主催者の厚意により空席のままになったとあった。笑いながらも心底ほっとした。


このイベントはやはり文系格闘技だった。回答者が1対1で対戦、お題に沿って自由律詩を2つずつ書き、交互に披露。それをお題2つやり、計8つの中から優秀作品を選び、それに選ばれた方が勝ち。
言語遊戯王のプレイヤーに寄る部分を大きくしたようなルール。自由律詩と言うだけなので範囲が広い。
結論から言うと、「実行委員」なるものが選んでいる「優秀作品」が必ずしもその試合でもっとも共感を得た物、ではなかったと思う。選ばれた人たちは、たいてい「相手のが選ばれると思った」と言っていた。「実家」の時にRG氏が出した「冬場友達が泊まりに来たときに出す毛布の柄が複雑なバラの模様しがち」は大変な受け方だったが、この対戦の優秀作品として選ばれたのは星野源氏が「東京」の時に出した詩で、さらに結果としてはこれがイベント全体の最優秀作品に選ばれた。
優秀作品として選ばれたのは以下のものである。

お題「夏」ダメだ サドルが 熱すぎる 東京03豊本
お題「雨」「折りたたみ傘持ってるんだ?」って言うあの子の言い方 光浦*1
お題「東京」その名前の劇団には行かねぇ 星野源
お題「夕方」うますぎる 家族をそっと うたがってみる しみずみちこ


豊本氏の作品以外は、解説がないとわからないものだと思う。イベントでは作者による事後解説にかなり時間を割いた。しかしどれも簡素な言葉の向こうに物語の広がりがある詩だと思う。
優秀作品はどれも詩だった。最初に若林氏が「(このイベントで作るのは)ワンランク上のあるあるです」とハードルを上げていたが、確かにそうだった。「共感を得る内容」ではなくて、「共感を得る詩」を競うイベントだった。
だからこそ、解説に俵万智氏が必要だったんだろう。解説で、どこがどう詩的か、どこを削げばよくなるか、とか、解説してもらえたらこれらが詩という説得力が増したと思う。


学生時代から詩歌を読むのが好きで、しかし自分では書かない、しかもポエトリーリーディングに興味がないと言う私は、同士というものにあったことがない。短歌とか俳句とか、書く人がイコール読む人みたいな世界で、角川短歌のアンケートも「作歌歴何年ですか」という設問が普通に出てくる。
当事者でないただの「読者」がたくさんいる今日のイベントはわくわくした。笑いと、共感と、そしてたまにあらわれる詩情が確実に読者に伝わる瞬間があった。寺田寅彦言うところのガラスを溶かす瞬間を目撃できるなんて、奇跡のようなイベントだ。大げさじゃなく。
詩的跳躍を徹底的に廃したところに宿る詩情は事故かも知れない。それでもそれをたぐり寄せる人々が格好良くって仕方ない。
そう、ステージに並んだ人が皆ほんとうに格好良かった。おそらくは、学校で人気者だった人ではないと思う(失敬)。体育祭でヒーローになれた人でもないと思う。しかし文系として最高峰の舞台に立つ彼らは紛れもなくヒーローだ。
文壇とか歌壇とか、高すぎて見えないところも良いけど、北沢タウンホールの舞台にあの文系ヒーローたちをまた見に行きたい。天の焔を取って来て、ガラスの向こうを見せて欲しい。詩のちからを知らしめて。

*1:これだけ記憶頼りなので間違ってる可能性大。てか忘れてて教えてもらった……。