トークライブにて、有吉氏の印象

有吉マシンガンズトークライブが始まって15分ぐらいで、焼きうどんを食べていた箸が止まった。有吉氏がすごい。この人ものすごい人だ。それしか浮かばなかったし、その印象は最後まで裏切られることはなかった。
お笑い芸人としてとかお笑いについてとか、そういうことを言うには私は知識が浅すぎるけど、ひとりの社会人として、ものすごく揺るぎのない人を見た。自信を持ってそれは言える。
つまり、有吉氏の芸人としての覚悟のベクトルの方角は知るよしもないけれど、その絶対値のあまりに大きなことは理解できる。有吉氏の背後に巨大で太い矢印が見えるようだった。


トークライブは芸人や芸能人、時事ネタの話題から始まった。有吉氏はワイドショーを初めとする、テレビをものすごく見ているんだろう。それも、自分の頭で考えながら。何の話をしても、「有吉」というフィルタを通った話が出てくる。表面的なこととか、世論に左右されることが一切なく、自分がそれを見てどう思ったか、どう解釈しているかがまず出てくる。なんておとななんだ、と、思ったのは、この文章が頭にあったからだ。

 おとなの人って、よくものを知っているなあというのが、第一印象である。この世界に対する、ぼくの第一印象である。たとえば二人か三人で、おとなの人が話す。とりわけ歴史の話や経済の話になると、おとなは強い。
「あれはあれだから、あれだよ」
 みたいなことをふらりとおりまぜる。ものをよく知っている。新聞やテレビが伝えていることとは別にその人の知識があり、それが流れ出る。それがまた「なるほど」と思うようなことなのだ。

荒川洋治「畑のことば」より みすず書房『忘れられる過去』所収

有吉氏はテレビの中の第一戦で戦っている人だから、そこで見たこと聞いたことももちろん加味されている。それも含めて口から出てくる言葉すべてが、ものすごい角度でマシンガンズの話の中のふわっとしたところを見つけてつきささる。頭の回転がはやい上に、人に伝わりやすい平易な言葉を選んできちんと伝える技術に長けている。オチがある話を聞いている訳じゃないのに、ものすごいカタルシスだった。


マシンガンズは終始神妙に話を聞いていたけれど、一度だけ、マシンガンズと有吉氏の覚悟が拮抗したときがあった。
有吉氏がM-1優勝者とかに嫉妬をしたりするのか、と聞いたとき、西堀氏は、「自分が準決勝に出るようになってからは、ネタでは負けていないと思う」と言った。
(それを聞いて、かっこいい!と思う私。)
間髪入れず有吉氏が「あ、それは怖いね。現状把握できてないって事だもんね」と言った。
(それを聞いて今度は、そう言う見方があるのか!と感心する私。)
しかし西堀氏は「でも負けてないって思っちゃいますね」と、一歩も引かなかった。
(それを聞いて、再びかっこいい!と思う私。)
ネタをする芸人の覚悟と、ネタをしない芸人の覚悟。まったく違うベクトルだけど、絶対値は同じくらい強かった。傍観者である私と来たら、まったくブレブレである。
しかも有吉氏は、マシンガンズそれぞれと組んでM-1に出ませんかという話題の最後では、「失礼な話だよ、ふざけて出るのも」と言った。ここにも、ネタをやらない芸人の覚悟を見た。


猿岩石だった頃、ヒッチハイクに行く前、有吉氏がどんな芸人になりたかったかは知らない。おそらく、今の有吉氏は若き日の有吉氏が夢見た芸人像とは違うだろう。
今の有吉氏は、それまでの恨み辛みや艱難辛苦、良いことも悪いこともぜんぶ飲み込んで身一つでそこにいるようだった。体の中に一本信念という槍を呑んでいるようなと思ったのは有吉氏がワンピースのTシャツを着ていたせいかもしれないけど、手ぶらなのに全部の武器を持っているようだった。
おそらくテレビの中の人たちってみんなこんなふうに身一つで戦ってるんだろうと思った。助け合ったりもしてるんだろうけど。
なんて恐ろしい世界なんだろう。そこに飛び込んでいきたい人たちがごまんといることが信じられない。


有吉氏の肝の据わり具合は圧倒的で、マシンガンズは前述のネタの行以外は有吉氏に反論することはなく、連名の「トークライブ」という括りではどうなんだろう?という部分もあった。でも徹頭徹尾ものすごく楽しかった。演者も楽しそうだった。そしてすごいものを見た。できることなら、有吉氏に、太田プロライブの企画コーナーに出てもらいたい。たくさんの太田プロの後輩に、客前でその姿を見せるのはどんなに貴重で素晴らしいことだろう。
有吉氏を引っぱりだしたマシンガンズにこころから感謝した。


ついでにというか。
ずっと、ライブでネタをやり続けた芸人が突然バラエティにいってタレント的役割ができることを不思議に思っていたんだけど、初めて、そこの連続性が見えたような気がした。やってることのどうこうではなく、やっている人たちに「ライブで培ってきた技術や経験がある」という共通の意識があることが、あのバラエティを成り立たせているのかも知れない。具体的に何を見てそう思ったのかはわからないんだけど。ネタをやらない芸人である有吉氏の芸=話術を見て思ったのかも知れない。