テレビ

「自分の中にお笑いという文化がない」というのは自覚していたのだけれど、どうも、「テレビバラエティという文化」すらないのではないかと思い始めた。「NHKと神奈川テレビ以外に視るべき番組はない」という10代を過ごしていたのだからしょうがないと言うか当たり前のような気もする。ついでに言うとドラマを視る技術もあんまり無い。
8時だョ!全員集合」も視ない家庭だったので、子供時分に視ていたバラエティは「オレたちひょうきん族」くらいで、あとは「わくわく動物ランド」「日立 世界ふしぎ発見!」「バラエティー生活笑百科」しか記憶にない。「クイズ!年の差なんて」と「クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!」は視てたかな。クイズばっかりだな。
ジャニオタになってからテレビを視る時間は段違いに増えたけれど、テレビは「ジャニーズの人を視る手段」だったので、テレビ番組をテレビ番組として楽しむということは、やっぱりしていなかった。必然的に、テレビ番組のおもしろさも価値も理解できない。たまに面白いと思うものはもれなくNHKの番組だったので、ことに民放の番組はどうでもよかった。


こんな感じで基礎がないので、テレビやお笑いが「過去と比較して今こうなっている」ということがさっぱりわからない。今お笑いブームなんだー、へー、前にもなかったっけ、ぐらいの認識である。ただ、いちにちの放送時間の中で、お笑い芸人が出てくる時間がものすごく長いと言うのは、視ていればわかる(ただ、それが過去と比べて増えた減ったということはわからない)。
芸人さんの価値はテレビに出るか否かだけではないが、それでもテレビという戦場でしのぎを削っている姿を日々視れば、その、いのちを賭けるものの正体を少しは理解したいと思うのが人情だ。
そんなわからないだらけのテレビの世界の中でも、「作家さん」てなんなんだろう、と言うのが、ここ2ヶ月ずっと疑問のトップに君臨していた。特にお笑いの作家さんて? 昔視たいとこい漫才はタイトルとともに作家さんの名前がクレジットされていたけれど、今の芸人さんは自分でネタを作るんじゃないの? 漫画家と担当編集者みたいなものかなぁと、なんとなく想像していた。そんな折、素晴らしいタイミングで求めていた本が出版された。

オールバックの放送作家――その生活と意見

オールバックの放送作家――その生活と意見

おそらくこれを読めば私の疑問は8割方解決されるだろうと手に取り、実際その通りだった。台本とアドリブの割合とか、さっぱりわからないことも多々あるけれど、それは外から見てわかる必要もないことなんだろう。
さらに、「テレビそのもの」「テレビ的なもの」、そしてそれに対峙する自分自身の見方についてなど、漠然と疑問に思っていた事への示唆にも富んでいて、とても読み応えがあった。ことに印象的だった部分をふたつ引く。

テレビというジャンルを確立したことによって、「テレビ好き」が納得する番組を作ることは皆上手くなったが、そうなると、テレビを見るのは「テレビ好き」だけってことになり、「テレビ好き」とそれ以外の人を分かつ囲いがどんどん高く、ぶ厚いものになって来ているように思えるのだ。

「私家版放送作家二十年史」より(初出は「小説新潮」03年3月号)

早い話が「テレビ作りのうまい人の番組は本当によくできている」という事実が「テレビを熱心に見る人」にだけよく伝わっているという図式が成り立っているのだ。ある番組が好きでたまらない、という人の「好き」のレベルは相当に高くなっている。(中略)ある番組が「すごく面白い」ということは、その番組を見る人が「すごく面白い」と感じている、という事実だけで充分であり、その裾野に「ちょっと面白いと思っている」という層は存在していない。もっと言うと、その番組を見てない人が見ると、「どこがいいのかさっぱりわからない」ことになっているからである。(中略)ある程度の層を不動にがっちりつかんでいる、というのが現在の「番組」と「視聴者」の関係である。

「テレビ(作る専門家と見る専門家、他は無しの時代)」より

(初出は『オタカルチャー日本版』メディアワークス 97年)


芸人さんを入口にバラエティを視るようになって、そうすると今視るべきはなんなのか知りたいと、テレビを中心に扱うブログなどを読むようになった。そこで、こんなに熱心にテレビを視ている人たちがいるのかと驚いた(偏愛的にジャニーズを見るジャニオタに言われたくないかもしれないが)。
実際自分で視てみて、テレビはこんな面白いことをやっていたのかと驚く番組がいくつもあった。テレビ好きの人たちが、テレビを好きでいられる理由がすこしわかった気がした。
それでも、私はまだ、ジャニオタを辞めればテレビを捨てても困んないかも知れないなーとどこかで思っている。つまり、私は「テレビ好き」にはなりきれないのだろう。
ただ、去年まっっっっったく興味が無くスルーした「FNS27時間時間テレビ!! みんな笑顔のひょうきん夢列島!!」を、今、猛烈に視たいと思っている。去年と今とで、確かにテレビを違うふうに視ているのだと自覚する。